In mother's will TOP

prologue


重苦しい風の音が通り過ぎる。大量の砂塵が風に乗り、視界を覆っていた。 灰色の雲は日光を遮り、外気の温度は冷えきっている。

眼下にはかつて栄華を誇っていたであろう街の残滓。 害毒でしかないコジマ粒子に犯され、今では人が住むどころか雑草一つ生えてはこない。 崩れ落ち、風化の一途を辿る廃墟がいたるところで伸び、その周囲は一面の砂で覆われていた。

大地が揺れる。空気中に待っていた砂塵が空中に投げ出され、粉塵の濃度がさらに増した。 汚染された砂に突き刺さったのは一本の足。それはまるで天からの鉄槌を連想させるほどのものだった。

砂と廃墟に覆われた地獄に佇んでいたのは、空よりも暗く、外気温よりも冷たい金属の怪物。 砂漠に生える廃墟よりも遥かに巨大なその足は、数えて六本あった。 それに繋がる胴体は、街そのものを包み込んでしまうかのような大きさを誇っている。

六百メートルにも及ぶ全高に、二キロを超えた全長。 昆虫を思わせる六本の足を砂礫につけ、その怪物は眼下の地獄を睥睨していた。

と、怪物の上部で何かが開いた。段階式に広がっていくのは飛行甲板だろうか。 怪物の進行方向に伸びていた二本の甲板が、それぞれ左右へと広がっていく。

甲板上には人型の体躯をした兵器――ノーマルが無数に展開されており、 長距離砲を構える彼らの視線は、ただ一点に注がれていた。

ミサイルランチャーが次いで開き、中央に設置された大口径の砲台も、静かに動き始めていた。 三本が一組となった砲台が両側に一つずつ。一つ一つの砲口は、艦隊に備わる主砲ですら赤子に見えるほどに巨大である。

六本の主砲、ノーマル、そして随所に設置された近接防空火器。 それらの狙いは全て空へと向けられ、そしてそれらは一斉に火を吹いた。

六本の火砲から放たれた榴弾が空気を切り裂き、亜音速で地平線の彼方へと消える。 上空を埋め尽くすまでのミサイルは、弾壁とも言うべき厚みを伴ってその後を追う。

代替不能な個人に変わり、代替可能な数多の凡人によって生み出された巨大兵器。 それが怪物の正体だった。その力は、世界を幾度となく動かしてきたネクストをも凌駕していた。 怪物が得たのは地上の覇権。まるで大いなる母の意志であるかのように、それは十年もの間、怪物の手から離れなかった。

スピリット・オブ・マザーウィル。砂漠に君臨する巨大兵器は、そう名づけられていた。



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