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ランク一位の男


病院の窓から、僕は街を見下ろしていた。

「……パパ」
「ん?」

僕の声でパパが振り向いた。

「僕はもうすぐ死ぬんだね」
「馬鹿なことを言うんじゃない!」

パパが怒った。僕はさらに言い返した。

「嘘だ。僕は知っているんだ。僕はもうすぐ死ぬんだ!」
「何言ってるの!」

今度はママが叫んだ。ママはベッドで横になっている僕の膝にそっと手を置いて、

「今日は、ランク一位の人が、お見舞いに来てくれるのよ」

と言った。

「そうだよ」

パパも続けてうなずいた。

「嘘だ! ランク一位が来るわけないじゃないか!」

そんな夢みたいな話あるわけがない。
僕はそのまま布団に潜り込もうとした。

すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえ、
誰かが僕の部屋に入ってきた。

「やー、こんにちは」
「ほ、本当だ、ランク一位だ!」

その姿を見て僕は本当に驚いた。ランク一位の人だった。
お供の人を何人か連れて、あのランク一位の人が僕の目の前に立っていた
そして、なんと握手まで求めてきてくれたのだ。

「いやー、今年は危うく三位になりかけたんだけれども、今年も一位だったよ」

そう言って、ランク一位の人は僕の手を強く握り返してくれた。

「おめでとう!」

僕も自然と力強い声を出せた。

「でも、どうやったらランク一位になれるの?」

ずっと気になっていることを聞いてみた。

「んー」

ランク一位の人は少し考えてから、

「たとえば、ランク五位の貴族がいるよね?」

と言った。

「しかし、そいつがランク五位だったとしても、私はランク一位なんだよ?」

でも僕にはちょっとわからなかった。

「欧州の主婦層のあたりでは、私を八位だとか言っている男もいるらしいけど、あんな年寄りと同じだと? とんでもない。私は一位なのだよ」

すごかった。ランク一位の人の言うことはすごく迫力があった。
難しくてよくわからなかったけど、僕はとりあえずうなずいておいた。

「考えてみると、十七位から始めさせられたのだよ」
「そうなんだ」

ランク一位の人の表情が少し変わっていた。

「あのころが一番辛かった。よく十二位の奴にいじめられたんだよ」
「へー」
「そのころいつも、九位の家に泊まっていたよ」
「そうなんだ」

ランク一位の人にも大変な時期があったんだな、と僕は思った。

「メルツェル」
「ん?」

と、彼は突然後ろに立っていた男の人に声をかけた。

「私は去年は何位だった?」
「一位だ」
「今年は何位だい?」
「一位だ」
「よしんば私が二位だったとしたら?」
「ランク、一位だ」

そこで僕はいけないことを考えてしまった。

(……二位じゃないの?)

と。でも、ランク一位の人が言うんだから間違いはない。

「ランク一位さん」
「ん?」
「僕も、ランク一位になれるかな?」
「ハハハハハハハハ」

威勢のいい笑い声に、僕は恥ずかしくなる。
僕がランク一位になるってことは、この人を超えるってことだから。
それは、今はちょっと考えられないことだった。

「おっと失礼」

と、ランク一位の人の携帯電話が鳴り始めた。

「もしもし」

ランク一位の人が電話を取る。

「……何? 私を二位だという奴がいるって?」

その顔が、見る見るうちに変わっていくのを僕は見た。

「そいつは何位だ? 七位の男だな? あの色男め。そんなに言っているのか? どんな言い方だ?」

電話の向こうの人間を威圧するように、ランク一位の人は話している。

「わかった。すぐに行く」

という言葉を最後に、彼は電話を切った。

「すまない。私はいかなくてはいけない。これで失礼するよ」

最後にもう一度握手を交わし、彼は部屋から出て行った。



その一ヵ月後、ランク一位の人は海に沈んだ。

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